内視鏡検査前処置による偶発症

薬剤に対するアレルギー反応・中毒症(局所麻酔薬)
上部消化管内視鏡検査では、経口法、経鼻法いずれの場合でも局所麻酔薬で前処置を行います。麻酔薬として、リドカイン塩酸塩を用いるのが一般的ですが、本剤はアレルギー反応や中毒症によるショック、発熱、痙攣などの副作用を起こすことがあります。これらの発生においては、リドカイン塩酸塩の投与量、気道や消化管からの吸収速度、薬剤に対する患者の感受性の違いなどが関与していますので、患者の過去の使用歴を前もって確認しておくことが重要です。

なお、ショック状態になった場合は、迅速な対応の有無が患者の生命予後を大きく左右します。バイタルサイン計測のための血圧計やパルスオキシメータを設置し、昇圧薬やステロイドなど緊急時に使用する薬剤、気管内挿管セット、バッグ・バルブ・マスクなどを救急カートにまとめ、内視鏡室に常備しておくようにします。

鼻出血
スコープが鼻腔粘膜を刺激する経鼻内視鏡検査では、前処置として血管収縮薬や局所麻酔薬の点鼻や鼻腔内散布が必要です。その際、点鼻チューブやスプレーの先端が、鼻腔開口部近くのキーゼルバッハ部と呼ばれる、血管の発達した場所にあたると、鼻出血の原因となることがあります。局所麻酔薬をネラトンカテーテルや前処置スティックに塗布して鼻腔内に挿入する場合には、無理な挿入で出血をきたします。さらに、これらを鼻腔内深部に入れると、上咽頭の粘膜を損傷して出血することがあります。鼻出血をきたすと、検査を行えないまま耳鼻科受診が必要となる可能性があるので、前処置は注意深く行います。

腸閉塞・腸管穿孔
全大腸内視鏡検査や経肛門的小腸内視鏡検査などでは、前処置として腸管洗浄液を服用します。腸管洗浄液は浸透圧が体液と同等に調整されているため、吸収されやすいという特徴があります。したがって、腸管狭窄を有する患者、高齢の患者、慢性的に便秘の患者は、多量の腸管洗浄液内服により腸閉塞を発症したり、腸管内圧の上昇による腸管穿孔をきたすことがあります。 腸閉塞に至った場合には、まずイレウス管の挿入と全身管理による内科的対処を行います。一方、腸管穿孔では外科治療が第一選択となります。前述のように腸閉塞と腸管穿孔による死亡例が報告されており、いずれも重篤な偶発症といえます。
腸管洗浄液の投与を開始する前に、腸管の狭窄が疑われる病歴がないことを確認し、服用中も排便や腹痛などの状況を確認し、高齢者では時間をかけて服用してもらうなどの工夫が必要です。
鎮静薬による呼吸抑制
検査中の苦痛や不安を軽減する目的で、ジアゼパム、ミダゾラム、ペンタゾシンなどの鎮静薬が広く用いられています。しかし、いずれの薬剤も中枢神経に作用して呼吸抑制をもたらすことがあります。特に、高齢者や呼吸器疾患を有する患者では注意が必要です。
呼吸抑制が見られるときには、聴覚、あるいは感覚刺激を与えて呼吸を促し、それでも効果がない場合にはフルマゼニルなどの拮抗薬を投与して、鎮静を解除することで対応します。
また、呼吸抑制による低酸素血症を避けるために、患者の呼吸状態を確認するだけではなく、パルスオキシメータで酸素飽和度を客観的にモニタします。また、鎮静薬の効果は検査後も持続するので、その間回復室で経過を見ることが必要です。

その他
上記以外の偶発症として、腸管洗浄液による誤嚥性肺炎や消化管運動抑制薬の副作用などが上げられます。前者は死亡例が報告されている重篤なものです。一方、消化管運動抑制薬による副作用として、抗コリン薬による尿閉、眼圧上昇、狭心症、甲状腺クリーゼ、グルカゴンによる高血糖などが挙げられます。これらの薬剤の禁忌を理解し、詳細な問診と過去の内視鏡検査歴の確認を怠ってはなりません。