2017.5.11

「マダニ」

5月10日、長崎県佐世保市の70代女性が、マダニが媒介する感染症「重症熱性血小板症候群(SFTS)」で死亡していたことがわかった。女性は先月25日、発熱や食欲不振、全身倦怠感を訴え市内病院に入院、治療を受けていたが今月に入り死亡した。マダニに咬まれた痕は見つからなかったが、血液検査でSFTSウイルスの感染が確認された。女性に海外への渡航歴はなく、発症前に庭で作業をしていた。

国立感染症研究所によると、SFTSウイルスの感染は西日本を中心に報告されていて、先月までの約4年間で全国計53人が死亡している。

マダニ感染症は、特定のウイルスや細菌を持つマダニに咬まれると発症する。感染すると6~14日間の潜伏期間を経て発熱、下痢、腹痛、嘔吐、筋肉痛、意識障害、失語、皮下出血といった症状が出る。血小板と白血球が減少するのが特徴。感染症発生動向調査によると、今年4月8日までに愛媛県、宮崎県、高知県、鹿児島県、徳島県など西日本の15県で110人が発症している。現時点ではこのウイルスに対する治療薬やワクチンがないため、そのうち32人が死亡し、致死率が29.1%と非常に高い。発症者は、気温が上昇してマダニの活動が活発になる5月から8月に多い。患者の年齢は60歳以上の高齢者が大多数だが、20代、30代にも感染例が出ている。今のところ東日本や北日本では発症の報告はないものの、栃木県、群馬県、山梨県、長野県、北海道などでもSFTSウイルスの遺伝子を持ったマダニが見つかっている。

ダニが媒介する感染症は他にも日本紅斑熱、ライム病などがある。日本紅斑熱は、マダニに寄生する細菌「リケッチア・ジャポニカ」が体内に侵入すると2~8日の潜伏期間を経て感染する。抗菌薬で治療できるが、対処が遅れて播種性血管内凝固症候群や多臓器不全が起こると死亡するケースがある。今年4月には、山菜採りをしていたときにマダニに咬まれた香川県の男性がこの病気を発症して死亡した。西日本での発症が多いが、患者は東日本にも広がっている。昨年1年間の感染報告数は240人で、感染症予防法が施行され報告が義務付けられた1999年以降最多となった。ライム病は3~32日の潜伏期間を経て高熱、発疹、全身倦怠感、関節痛が出るのが特徴。呂律が回らない、理解力が低下、腕に力が入らないなど脳卒中に似た症状も報告されている。日本では埼玉県、神奈川県、東京都、大阪府などで昨年は17人が発症した。日本では少ないが、欧米では増加が社会問題化している。米国ではワクチンが承認(日本では未承認)されているが、まれに死に至ることもある。

マダニ感染症を防ぐには、原因となるウイルスや細菌を保有するマダニに吸血されないようにするのが一番。マダニに咬まれる危険性が高いのは、マダニを運ぶシカ、イノシシ、野ウサギといった野生動物が生息するような野山や田畑のあぜ道、河川敷、都会の公園を含めて、草むらがあるところ。春から秋にかけて、そういったところへ行くときには、むやみに藪に入らず、帽子、長袖長ズボン、薄手の手袋や軍手、長靴やトレッキングシューズを着用し、できるだけ肌の露出を避けることが大切。首もかまれやすいので、タオルや手ぬぐい、スカーフを巻いたり、ハイネックのシャツを着用したりし、ズボンの裾を長靴や靴下に入れて足首も露出しないようにする。

家ダニは目に見えないくらい小さいのに対し、マダニの成虫は3~8ミリと肉眼で判別できる。病原となる細菌やウイルスを持つマダニに咬まれなければ問題ないので、衣服についても慌てずに、ガムテープなどで取り除く。屋外から室内、テントなどに入る際や、シャワーや入浴のときは、マダニが体についていないかチェックすることが重要。犬や猫にもマダニはつくためペットを室内に入れるときには、体にマダニがついていないかチェックする。

マダニに咬まれたとしても24時間以内ならピンセットで取り除ける可能性がある。除去できないときや刺し口に棘のようなものが残ったら、皮膚科か外科を受診し除去してもらう。無理に手の指で抜こうとしたり手で触ったりすると、ウイルスや細菌を自分の体に注入してしまう恐れがある。咬まれた後、発熱、関節痛、頭痛、発疹などの症状が出たら、内科で治療を受け、マダニに咬まれたことを申告することが大切。マダニに咬まれても痛みはなく気付かない人もいる。マダニの活動が活発化するこれからの季節は特に注意が必要。

毎日新聞、PRESIDENT引用