毎年、熱中症による死亡数を上回る、1,000人を超える人が「凍死」しているのをご存知でしょうか。厚生労働省の『人口動態調査』によれば、2016年に凍死を原因として死亡した人の数は1,093人。2000年から2016年までの国内の凍死者は計1万6,000人で、熱中症の1.5倍に上っています。月別では、12~2月の3ヵ月で全体の77%を占めており、今の時期に特に注意が必要です。

凍死と聞くと、冬山での遭難をイメージする方も多いと思います。ですが実際には街の中、それも屋内で亡くなる人が少なくありません。特に屋内で凍死する事例は高齢者に多くみられ、いわゆる老人性低体温症が原因となっている場合がほとんどです。
凍死を引き起こす低体温症は、寒さで体の熱が奪われ、体の深部体温が35℃以下になり全身に障害が起きる症状です。人間の体温は通常36~37℃ですが、35℃を下回ると筋肉がこわばるようになり、刺激への反応が鈍るようになります。さらに体温が下がると思考力・判断力が低下し、体温が30℃以下になると昏睡状態に陥って命にかかわる事態となるのです。
2015年に日本救急医学会が行った調査によれば、全国の救急医療機関91施設に低体温症で搬送された705人のうち、屋内での発症は517人と7割以上を占めていました。搬送された患者の平均年齢は72.9歳で、糖尿病や高血圧症などの病歴を持つ人が多く、亡くなった人は161人に達しています。
低温による凍死者の数は1990年代から急激に増えつつあり、この背景には、「重症化するまで周囲の人から気づかれない社会から孤立した高齢者の増加」「貧困層の増大化」に加え、低体温症を発症しやすい「高齢者の人口増加」があると専門家は指摘しています。
低体温症を引き起こす「低体温」は、体の芯の部分の温度である「深部体温」にかかわる体温です。そのため、体温計で皮膚の表面温度を測定した数字からでは、低体温であることに気づきにくいのです。さらに「本人が自覚しにくい」という点も低体温の大きな特徴です。例えば、冷たい水に手を入れれば最初は冷たく感じますが、入れ続けることでその感覚に次第に慣れていき、冷たさを自覚しにくくなります。しかし冷たさに慣れても手の温度は下がり続けており、次第に「指の動きが悪くなくなる」などの症状が現れます。低体温の状態もこれに似ていて、本人が自覚できないまま深部体温が下がっていき、気づいたときには重症化しているということが少なくありません。
低体温症を予防するうえで重要なのは、部屋の温度を19℃以上に保つなど屋内であっても寒さを意識することです。高齢者の場合、熱中症などの原因と同じように、電気代の節約や「このくらいの寒さなら我慢できる」などと考え、暖房を活用しない人が多いと言われています。そのため、部屋の温度調節は本人任せにするのではなく、周囲の人が意識的に行うことも必要です。さらに深部体温を下げないために、「厚手のソックスを履く(ただし滑りやすくなるので転倒には注意)」「できるだけ重ね着をして座るときはひざ掛けを使う」「和室の場合はこたつを設置する」「寝るときはパジャマ以外にアンダーウェアを着る」といった防寒対策を万全にすることも大切です。
また、「顔がピンク色で腫れぼったい」「皮膚が青白い」「体に震えがみられる」といった低体温症のサインを見逃さないことも大事です。日頃からできる対策として、高齢者本人の様子、身体状態をチェックすることが重要なのです。低体温症を放置すると凍死をはじめ命にかかわる事態になるため、高齢者本人はもちろん周囲の家族・介護者も、今の季節は特に注意が必要です。
(ウェザーニュースより引用)