アメリカ上院の『高齢化に関する特別委員会』で、認知症を予防する生活様式についての発表報告が行われました。発表者は、アルツハイマー病ゲノム・プロジェクトのディレクターであるルドルフ・タンジ氏。彼は、ハーバード医学大学院で神経学の教授を務めています。「アルツハイマー病を患う遺伝子学的リスクがある人のうち95%以上が、健康的な生活を送ることで病気を数年、あるいは数十年単位で遅らせることができる」という仮説を立てています。ただ、この点を確実に明らかにするには臨床実験が必要です。今回、委員会に対して、「生活様式と行動の変化により、脳の健康を保全・促進し、アルツハイマー病、心臓病や糖尿病、がんなど加齢に伴う病気を予防することができる可能性があるとアメリカ国民に認知させるべきだ」と主張しました。
タンジ氏は、認知症を避ける方法として「SHIELD」と呼ぶ生活様式を提案しています。
●「S」はSleep(睡眠)。アルツハイマー病の原因を除去するのに役立つ7~8時間の睡眠を指します。
●「H」はHandling stress(ストレスへの対処)。瞑想の実践などを指します。
●「I」は友人とのInteraction(交流)。孤独により、アルツハイマー病のリスクは倍になります。
●「E」はExercise(運動)。アルツハイマー病で影響を受ける脳の部位を強化するため、新たな神経細胞の成長を促すものです。
●「L」はLearning(新たなものの学習)。記憶を保管している神経細胞をつなげる脳内のシナプスの数を増やすものです。シナプスの喪失は、認知症のレベルと最も相関しています。より多くのシナプスを作れば作るほど、より多くのシナプスを喪失しても問題になりません。
●「D」はDiet(食生活)。脳にとって最善の食生活は、赤身肉を最低限に抑え、腸内細菌を強化してくれる食物繊維を果物や野菜から豊富に取る地中海式の食事です。また、健康的な腸内微生物の集団はこれまで、脳の神経細胞を破壊する最大の要因である脳の神経炎症を緩和することが示されてきました。

高齢化に関する特別委員会のスーザン・コリンズ委員長とタンジ氏はどちらも、「高齢者が身体的・社会的・認知的な活動を続けることを含めて健康的な生活を送れば、より長い間働くことができ、医療費も削減され、個人の家計面で大きなメリットが得られる」と語りました。また、家族側でも家計の面で効果があるかもしれないと補足しました。高齢者の家族は、予防できたはずの慢性病を抱える家族の介護のため、仕事を休む必要がなくなるためです。そして、アルツハイマー病はアメリカ経済を脅かすものであると警鐘を鳴らしました。タンジ氏は、「アルツハイマー病が米国にもたらす負担は年間3000億ドル(約33兆円)に近づいている。米国人の寿命が80歳近くになる中、アルツハイマー病が急速に広まっている。いつの日か、アルツハイマー病がそれだけで米国の医療システムを崩壊させてしまうかもしれない」と警告しました。これは日本も他人事ではない問題です。「SHIELD」の生活様式が病気の予防につながるのかの実証はこれからですが、国内外の認知症研究の進展を注意深く見守っていく必要があります。

                              (Forbes.japanより引用)