「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」によると、糖尿病患者の多くが歯周病を発症しているようです。糖尿病患者と非糖尿病者の6年間の歯周病の状態を調べたところ、糖尿病患者は非糖尿病者と比べて2.6倍もの発症率となりました。世界各国の検証・調査で、糖尿病と歯周病の関連性は高いとされており、糖尿病になると歯周病を合併症として発症しやすく、歯の喪失につながるといわれています。

ではなぜ、糖尿病になると歯周病を発症しやすいのでしょうか。歯周病は、歯周病菌が口の中で繁殖することで発症します。通常であれば、唾液や歯磨きによって排除できるのですが、糖尿病になると口内の環境が菌にとって住みやすい状態となるため、歯周病にかかりやすくなるのです。まず、血糖値が高くなると口の中が乾燥します。そして、血液中にある糖分を体の外に排出しようとして尿をたくさん作るため、体の水分が尿として出ていき乾燥した状態に。さらに、血糖値が高い状態だと細菌やウイルスを排除してくれる白血球の働きが低下してしまいます。傷ついた細胞を修復する機能も低下するため、歯周病によって壊された歯や歯肉が修正されず進行が早まってしまうのです。また、高血糖になっている状態では、血液をもとに作られている唾液などの口腔内の液体の糖分も増えていることが考えられます。この状況下では、歯周病菌が繁殖しやすいといえるでしょう。

糖尿病が歯周病を促進するだけでなく、歯周病は糖尿病を進行させることがあります。歯周病菌は歯肉から血液中に入り込むと、腫瘍壊死因子αの濃度を上昇させます。腫瘍壊死因子αは、血糖値を下げるインスリンを作りにくくする働きを持つものです。インスリンは、血液中の糖分をエネルギーに変えて血糖値を下げるホルモンなので、インスリンの量が減ると血糖値は上がっています。歯周病が進行すると、このように糖尿病がどんどん悪化していくのです。糖尿病が悪化すると口内が乾燥して、さらに歯周病菌が住みやすい環境になる、という悪循環が生まれます。この悪循環を断つためにも、糖尿病と歯周病の両方へのアプローチが必要なのです。

歯周病は糖尿病悪化につながるため、歯周病を治療することが糖尿病改善のひとつの手段となります。実際「歯周病を治療することで血糖値が安定してきた」という報告もあり、歯周病による悪影響を防ぐことで、糖尿病の改善が見られているようです。食生活の改善やインスリン投与での改善が見られない場合は、歯周病治療もひとつの手段として考えましょう。

                                           (糖尿病予防ガイドより引用)