数千万という犠牲者を出した1世紀前の史上最悪のパンデミック「スペイン風邪」など、人類とウイルスとの壮絶な攻防史から、教訓と処方箋を提言した本が、新型コロナウイルス感染拡大を受け、このほど緊急再刊された。英国人ジャーナリストで社会史家のトム・クイン著『人類対新型ウイルス 私たちはこうしてコロナに勝つ』だ。

 今回、新型コロナウイルスに対する予防や治療などについて日本語版補遺を執筆した科学・医療ジャーナリストの塚崎朝子さんは、新型コロナウイルスがこれほど短期間に広がった理由を主に3つ挙げている。
(1)ウイルス要因:このウイルスはヒトの細胞にくっつきやすい。結合の強さはSARSウイルスの10倍以上という研究もある。
(2)宿主(ヒト)要因:ほとんどの人類が初めて遭遇した未知のウイルスだった。人類の多くが免疫を持っていなかったうえ、人生100年時代といわれる日本では糖尿病や慢性腎不全など免疫学的弱者が多く、ステロイド薬やコイガン剤など、治療薬で免疫低下作用を持つ薬がいくつもある。
(3)環境要因:国境を越えた人びとの往来が急増した。

 新型コロナウイルスの有効な治療薬:レムデシベル(抗エボラ薬、抗HIV薬)、アビガン(抗インフルエンザ薬)、オルペスコ(ステロイド吸入剤)、フサン(膵炎の治療薬)、カレトラ(抗HIV薬)などがあるが問題も多いようだ。ワクチンの予防接種では、ウイルスの遺伝子情報を体内に注入する「DNAワクチン」がアメリカやドイツ、そして日本も開発している。

世界でロックダウンが徐々に緩和されていくなか、日本でも26日に首都圏と北海道で緊急事態宣言が解除されたことで、全国的な解除となった。しかし、解除後も、治療・予防の「武器」がそろわない間は、「人と人の距離を開ける」「三密を避ける」「石鹸で手洗いを丁寧にする」などの一人ひとりの予防が引き続き重要になる。ウイルスの活性が高まるとされる秋冬には再び牙をむいて私たちを脅かす可能性は高いからだ。

 世界的な終息の鍵となる「集団免疫」は、人口の60%ほどが感染することで、ウイルスはヒトの間で感染を広げられなくなり、流行は沈静化するというが。スペイン風邪の時も第一波が去ると、だれもがこれで流行のピークは過ぎたと思った。ウイルスがしばらくなりをひそめている間に変異し、“毒性”を高めていることなど知るよしもなかった。そして第2波が襲ってきた。不意をつかれた政府が事の重大さを理解した時には、すでに手遅れだった。

突然変異した新型コロナウイルスは恐るべき破壊力を備え、誰彼かまわず襲い掛かり、瞬く間におびただしい数の人命を奪い。全世界で何百万単位の犠牲者がでるのではないだろうか。第2波の恐ろしさを事前に知っておくことが命を守るために必要となるであろう。

(AERA dot.より引用)